虫歯治療が入れ歯を招く? 3


「以下は件の記事に対する僕の見解で、お手紙にしたためて患者さんのお母様にお送りしたものです。

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本日は率直な御質問を投げかけていただき、ありがとうございました。お子様の健康のことに関して御両親が心配に思うのは、ごく自然なこと。これも私と茂木信道歯科医院を信用していただけた結果と、大変嬉しく感じております。

さて、レジンの話ですが、たしかに以前ならば金属系材料を使わざるを得なかった虫歯に対して、レジンを適応できるようになってきています。しかし、レジンは万能なものでは決してありません。個々のケース毎に最も適した治療法を吟味、選択し、レジンや金属系材料を使い分けることが必要だと考えております。

新聞には「レジンを用いた治療法は、できるだけ歯を削らない」とありますが、あくまで金属系材料との比較で切削量が少ないのであって、レジンを使用する場合でも必要な量は切削しなくてはなりません。ムシ歯の取り残しは基本的にタブーであることは大前提であります。
レジンと金属はそれぞれに長所と短所を持っています。レジンの長所は何と言っても、色を歯の色に近付けられることです。その点においては、金属とは比較にならない差があります。また、歯との接着性においてもレジンの方が勝っています。歯の削った面にしみ込んで硬化するからです。ただし金属のそれが著しく劣っているかと言えばそうではなく、数十年にわたり耐えられるレベルのものです。
一方、金属の長所はその物性です。単純に考えれば「詰め物や被せ物」は、エナメル質と全く同じ材質が良いように思われます。しかし、エナメル質は極めて硬く、こと耐磨耗性に関してはレジンとは相当の差があります。対して金属の素晴しいところは耐摩耗性が高いのに軟らかいことです。この「軟らかい」とは、展性、延性と表現されますが、これが特に優れているのはゴールドです。「所謂、咬む性能」だけで選択すれば、ゴールドが第1選択ということになります。
セラミックなどは色合いを歯と同じにでき、しかも長期間にわたり変色しないという長所を持っていますが、硬いだけで展性や延性が殆どなく、脆いので臼歯部(奥歯)には、よほど見た目を重視する場合以外は向きません。
レジンもこの10年で硬さや耐摩耗性が格段に向上しましたが、エナメル質と比較するとまだ大きな差があり、対合の歯と直接ぶつかる部位には、長期の安定性を考えた時には適応とは言えないと思います。言い換えれば、小さなムシ歯や、対合の歯と直接当らない部分、または数年持てばよい乳歯には奥歯でも充分適応ですが、ある程度大きなムシ歯で、対合の歯との咬み合わせに直接関与する部位の永久歯のムシ歯には、金属(理想的にはゴールド)が適応だと思います。
もっとも、奥歯のレジンは10年前は本当に「お話にならなかった」ですが、現在は適応症がずいぶん増えたことは事実です。

次に「治療回数が少ない」ことについてですが、小さいムシ歯に関しては、確かにレジンは少なく済みます。殆どが1回で完了します。小さなムシ歯はレジンの得意とするところですから、まさに適応です。しかし大きなムシ歯の場合はどうでしょうか。
新聞には「重度の場合では従来の金属系の材料と同様に型を取る」と書いてありますが、この時点で1回では完了しないことがお解りいただけるかと思います。
また、型を取るということは技工士さんが作る(技工室で硬化させる)ということですから、金属同様に、歯は「外開き」にある程度大きく削らなくてはならなくなることもお解りいただけるでしょうか。言い換えるならば、金属とほぼ同様の削り方で、ほぼ同様の形態の物をレジンで作る、というだけのことになるわけです。
つまり、物性ではレジンが大きく劣ることは明らかですので、見た目に余程こだわるのでなければ、適応ではないことがお解りいただけるかと思います。
ちなみに新聞には「2回目の治療ではレジンを詰めた後に光を一瞬照射して終わる」とありますが、これは「ウソ」です。

次に「レジンを使う治療法は痛みを軽減する治療法」であると書いてありますが、金属で治療する時に、レジンの時より多く削るべき部分は、歯髄(歯の中の神経)から離れた部分です。歯髄の近くはレジンの場合でも金属の場合でも同様に削り取りますので、患者さんの感じる痛みに大差はないと思います。どちもある程度(かなり?)は不快です。歯科治療の悲しいところだと思います。

次に2次う蝕についてですが、小さなムシ歯に関していえば「まさにその通リ」、レジンの方が有利です。

次に、レジンは「現時点では理想的な治療法に最も近い」とありますが、きちんと適応症を選べば確かにその通リです。その一方で、レジンは「万能というには程遠い」のも事実です。
そして、「レジンを使う治療をやればやるほど、現時点では歯科医院が赤字になりかねない」とありますが、確かにレジンは高い材料で、利幅は小さいです。しかし金属系は「技工料=人件費」がかかります。どちらが割にあわないかは、ケースによって変わってきます。どっちもどっちです。たしかにコメントしているのが大学教授ですから、技工料まで頭がまわらないのもわかります。

次に、金属の場合「接着するセメントが唾液で溶ける」ことについてですが、昔のセメントは確かにその通リでした。とはいっても、「数年から15年ほどで落ちる」というのは、残っている歯の条件が悪かったり、良くても治療が下手だった場合だと思います。ちなみに6歳の時に金属で治した僕のムシ歯は、37歳の現在再発しておりません。逆にいえば現在主流になりつつあるレジン系のセメントも、全く溶けないわけではありません。もちろん、歯の条件が悪かったり、技術的に下手ならば数年で外れます。

次に「固まったレジンがそのまま歯の一部になる」ことはありません。また、「樹脂含浸層」という言葉はありますが、「人工エナメル質」というものはありません。
 
ところで、予防が本当に大切であることを否定する歯医者は存在しないと思われます。そもそも、歯科の2大疾患であるムシ歯と歯周病は、最近の塊であるプラーク(歯垢)の存在なくしては起りません。
口腔内には常に細菌が存在することから、どんな精巧な治療を行っても治療効果を持続することは困難です。また、治療後の期間の長短に関わらず、再発や新たな疾患の発現を見ることも少なくありません。特に、メインテナンスを行わない場合には、良好な経過を示す治療期間は患者さんの生涯の中でほんのわずかです。
さらに治療後に再発したり、新たな部位でトラブルが生じた場合には、患者さんは「治したはずなのに」とか「治療は終わりといわれたのに」という思いから、歯科医療に不信感を持ったり、転院をくり返したり、歯科治療に消極的になったりという経過をたどります。
一方、メインテナンスを行った場合には、長期間に渡って良好な経過を維持できることが多くの研究で明らかになっています。通常、メインテナンスと呼ばれる治療後の通院は、症状が改善されていることや積極的な治療(手術や切削など)でないことから、患者さんも歯科医師もそれを軽視しがちです。しかしメインテナンスは原因除去治療、また、外科処置や補綴処置、修復処置(レジンはここに含まれます)などの修正治療後に続けて行うべき重要な治療期間であるとされています。
新聞には「予防第一だが別の治療法がないわけでもない」と書いており、あたかもレジンにはメインテナンスが必要無いように受け取れます。もちろん、レジンで治療した後もメインテナンスが必要不可欠です。

レジンによる治療法は日本中の歯科医師が普段から行っております。適応される範囲もこの10年間で広がってきています。この治療法ができるのは大学病院だけなどということは一切ありません。もちろん、日本全体で1割以下の歯医者しかできないなどということもありません。

医療ジャーナリストの多くは、どうしても「トピック性」を出したいがために、従来の治療法の欠点を強調して読者(患者)の危機感を煽ります。そして「新しい治療法=万能な治療法」というような論法をとりがちです。その結果、文面全体が「従来の治療法=悪い治療法」のようなオーラを放ってしまうのです。
古くから長い間採用されてきた治療法というものは、改良を積み重ねて信頼性を高めてきたものが多く存在します。もちろん例外があり、淘汰されていった治療法も存在することは事実です。
もちろん、レジンによる治療法は、適応症を正しく選択すれば非常に有効かつ長期的予後も良好な治療法です。しかしその一方で、金属による治療法にも全く同じことが言えるのです。

新しい治療法を導入することが、医療機関にとって必要であることは事実です。しかし大切なことは、「最新」の医療が「最良」の医療であるとは限らないということです。
最良の医療とは、それぞれの患者さん1人1人に対して最も適切と思われる治療法を充分に検討した上で選択し、それぞれの患者さんにわかりやすく説明し、患者さんが納得した上で治療を行い、長期にわたり患者さんが満足する治療であると考えております。

2002年7月16日
                              茂木信道歯科医院
                             医院長: 茂木信道


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