間違いだらけの歯科医院えらび:その1(痛くない歯医者編)


「歯医者は痛いから嫌い」
そうですよね。痛くさえなければ歯医者はこれほど嫌われ者ではなかったでしょう。患者さんにとって「痛くない歯医者」を探すことが永遠のテーマだとすれば、歯医者にとっても「痛くない治療をする」ことは永遠のテーマであるのです。

昔に比べればずいぶん改善されたとはいえ、歯科治療の多くはやはり不快なものです。そして痛みを伴うものも少なくないです。これは悲しいかな、現実であります。

医学における大発明のひとつに麻酔があります。この麻酔を効かせれば痛みは殆ど無くなります。しかし麻酔の効きにくい人というのは確実に存在し、しばしば辛い思いをさせてしまうことがあります。そして、麻酔の注射自体が痛いというのも相変わらずの課題なのです。

もっとも、麻酔の注射自体は近年、ずいぶん痛くなくなりました。
表面麻酔は気休めが半分とはいえ、採用している歯医者さんが多くなりました。注射針も昔は使うたびに消毒していたので、何度も熱を加えて消毒すると針先が鈍ってくるので、痛かったわけです。その点でも現在はほとんどが使い捨てですので、常に新品で針先も鋭利で痛みも少なくなっていると言えます。麻酔の薬液は冷蔵庫などで保管しているのですが、キンキンに冷たいまま注射すると痛いです。そこで、薬液を人肌の温度まで温めたりもしています。そして、注射する際もゆっくり注射することで痛みがやわらぎます。これらは、歯医者が手間をかけることにより痛みが軽減されることなのですが、保険の範囲で治療している以上は料金も変わりません。歯医者にとってみれば、どんなに手間をかけて痛みを軽減する努力をしても儲からないわけですから、ある意味「痛くない歯医者は良い歯医者」であると言えるかもしれません。

麻酔の話は置いておくとして、治療自体の痛みについてです。代表的なものは、キ〜ンという音とともに歯を削る時のあの痛みです。

基本的にはムシ歯の部分は削っても痛くありません。
ただし、よく「ウチはムシ歯の部分だけを削るので痛くありません」と言っている歯医者の宣伝文句を目にしますが、それがいかに困難なことであるかお解りいただけるでしょうか?。ムシ歯というものは元々は健康な歯が細菌により脱灰したものです。後から付着したものではありません。ガラスや壁にこびりついた汚れを削り落とすのとはワケが違うのです。それでも実際には汚れを取り除いた後はガラスや壁には傷がついてしまいます。汚れだけを削り取って壁には一切触らないなどということは不可能と言って良いでしょう。
リンゴの皮をむいた時、腐っている部分があればその部分は切り取りますが、腐った部分だけを完璧に切り取ることを想像してみて下さい。ムシ歯を削り取るということは、リンゴの腐った部分を切り取るということに近いものがあります。ムシ歯の部分を取り残しても良いと言うのなら痛くなく削ることも可能でしょうが、ムシ歯の部分だけを他に一切触ることなく完璧に削り取るなどということは、現実問題としては無理な話です。痛くなく削る代わりに、ムシ歯の取り残し:再発というリスクが常についてまわるのです。
もちろん賢明な読者の皆様は、痛くないけどムシ歯の取り残しがある歯医者と、少しは痛いけど取り残しのない歯医者のどちらが良い歯医者であるかは、言を待たないでしょうけど。

削っている時の痛みは前述の麻酔である程度の改善がみられますが、削った後(麻酔が切れた後)の痛みも大きな問題です。

歯を削るというのは、かなり刺激的な治療ですので、現実的にはムシ歯をきちんと削り取った後には多少の痛みは出ます。この痛みは個人差が大きいので、友人が「あの歯医者で治療した後は痛くなる」と言っても、それほどでもないかもしれません。ムシ歯を徹底的に追求して取り残しを一切なくそうとすればするほど、治療後の痛みが発現する可能性が高くなるわけです。治療直後に絶対に痛くならない方法、、、簡単です。ムシ歯を表面だけ軽く削って思いっきり取り残せば良いのです。

よく、「削らない歯医者は良い歯医者」などとマスコミを中心に言われますが、実際にはムシ歯になっていない部分であっても削ったほうが良い場合というのは存在します。ムシ歯になっていない部分を意味もなく削る歯医者を良い歯医者だとは思いませんが、なぜ削らなくてはいけないのかということをしっかり説明してくれる歯医者ならば、軽々しく「削りません」とか「完全無痛」などと宣伝している歯医者よりも遥かに信頼のおける「良い歯医者」であると思います。

僕は神奈川歯科大学に在職中の11年間で10ケ所の歯医者でアルバイトをしましたが、長く勤めたところもあれば、短期間で辞めたところもあります。ある歯医者に勤めたところ、そこの院長に「ここは大学ではないから、大学のような治療はしないように」と言われました。よく言われる「大学のような採算度外視の治療をするな」という意味なのかと思ったら大間違いでした。
『ムシ歯は全部削り取るな。時間がかかるし治療後に痛みが出る可能性もある。もし痛みが出ると「あの歯医者は痛い」と言われてしまって評判が悪くなる。ムシ歯はわざと取り残したままで終了しろ。その方が早く終わって痛くないから患者は喜ぶし、若い君でも上手だと思ってもらえる。その代わり、患者には「今回治療した歯は相当に悪くなっていましたが、なんとか治すことは出来ました。しかし、相当に悪かったものを無理して治したので、今は良いですが何年後かにはまた悪くなると思われます。」と言っておけ。ムシ歯をわざと取り残してあるのだから、いつかは痛くなったり、金属が外れたり、歯がかけたりもするだろう。しかし患者は「あの先生の言った通りだ」と思って、また来てくれる。もちろんその時も時間をかけて完璧に治療しようなんて思わないように。いいね。』
こういう「手抜きを意図的にすること」が「開業の王道」なんだとか。この歯医者に長く勤めることはありませんでした。


上記の文章は2001年の時点での学術的根拠に基づいて書かれております。

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