薮蕎麦宮本

  店の中に入るとそこは子供の頃(僕が子供の頃とは約30年前)にタイムスリップしたような薄暗い民家の土間が迎えてくれます。部屋に入ってもBGMなどなく、古い柱時計が時を刻む音だけが響いています。

さて注文。蕎麦屋といえばまずは酒でしょう、ということになるのですが、ここには銘柄不明の「水酒」というとんでもない酒が存在します。水のごとしな酒は、僕は好みではなかったはずなのですが、これはもはや別格でした。

写真は義弟の中村裕幸&由美夫妻と一緒に2001年の大晦日に行った時のものですが、2人の前に置いてある升がまさにその水酒です。お通しは蕎麦味噌と岩塩、たったこれだけですが両者共に珠玉の逸品です。水酒と蕎麦味噌と岩塩の組み合わせでちびちび呑む、あぁ〜ここに来て良かったと実感する格別のひとときなのです。これだけでも来る価値がありますが、つまみもまた恐ろしくウマいです。最初サクサク、次に汁に馴染んでトロリとした食感が愉しめる天ぬき、ひたすらにサクサクプリプリの極められた天だねが通常の店とは別格なのは言うに及ばず、春野菜の(特にふきのとうの)天ぷら、そしてアナゴの天ぷらも超絶品。なにが旨いって衣がそもそも異常に旨いです。そして中身。海老などはなんでこんなにプリプリッとしているのか本当に不思議です。
当然、塩をつけても天つゆでもどちらでも良いのですが、僕は断然塩をお薦めします。先ほどのお通しの岩塩とは全くの別物で、こちらもまた何とも旨い。未使用の天つゆは単独で啜ると、すでにそれは一つの料理になっていると言っても過言ではないのです。添えてある大根おろしも、それ単独で異常に辛くてしかも旨い。鴨の合焼きも空前絶後の味であります。いままで喰っていた鴨は何だったんだ?

 さぁて、とどめの蕎麦に突入です。ここのお薦めというか、看板メニューは「手挽き」という冷たい蕎麦であります。殻つきの玄蕎麦を石臼で手挽きして打つのですが、1日分を挽くのに数時間を要するという、もはや味の芸術品と称するのが相応しいです。蕎麦を何もつけずに一口すすったとたんに、芳ばしい香りが広がり、独特の甘味が伝わってきます。つゆの色は真っ黒で異常に辛い。でも異常に旨い。わさびを蕎麦に直接つけて汁もちょっとだけつけてすする、、、あぁ幸せ、、、。わさびは単独でも充分に美味しく、これで酒が呑めちゃうよ〜、、って感じです。他の蕎麦ももちろんキラ星のように、、だが文章が長くなりそうですね。
蕎麦湯の話をしなくては。 最後の驚きはこの蕎麦湯でした。普通、蕎麦湯と言えば白く濁っていてわずかにとろみがあるものだと思うでしょうが、ここのは無色透明でサラサラしてるのです。しかし香りは今まで飲んだどの蕎麦湯よりも強烈で鮮烈なのです。つゆと混ぜても旨いが、もったいないと思ってしまう、蕎麦湯まで芸術品なのでした。

 さて、店に入る前に、最も気合いを入れて行く店だ、、と書いたと思いますが、そのもう一つの理由はお察しの通り値段です。単純に倍。で、量が少ない。これにつきます。でも異常に旨いので結局通ってしまう、、、今では嫁さんの実家に年に3回(年末年始、黄金週間、旧盆)帰ると必ず気合いを入れてこの店を訪れるようになってしまいました。
年に3回の我が家の贅沢が蕎麦屋だと言うと不思議がる人もいますが、喰いに行けば納得してもらえると確信しております。一度奮発して散財覚悟でお試しあれ!後悔はしませんから(多分)。

薮蕎麦 宮本
住所:静岡県島田市船木253-7
電話:0547-38-2533
月曜休み、11:30開店、閉店は16:00くらい?

「他の場所にも行ってみる」



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