「電動歯ブラシってどうなんでしょう?」
この質問、本当によく受けます。結論から申し上げると、今現在、買おうか買うまいか迷っているのなら、買う必要はないでしょう。もう既に買ってしまった方、難しいところですね。決して安い買い物じゃなかったでしょうから、使わないで下さいとは言えないし、、、。
ところで、テレビのコマーシャルでもメーカーの広告でも、電動歯ブラシは通常の手用歯ブラシと比較して、より効率良く歯垢を除去できると謳っています。そして大学等の研究機関の実験、調査でも、電動ブラシの方が効率良く歯垢が除去されるという報告は数多くあります。
それでは何故、わざわざ買う必要がないかと申しますと、それには様々な理由があります。
まず値段についてですが、数千円で買えるものはハッキリ言っておもちゃの域を出ていないと言ってよいでしょう。既にお持ちの場合も使わない方が良いでしょう。「もう買ってしまったのなら仕方ないですね」と言えるのは1万円台後半からです。
さて、歯垢除去の実験をすると電動ブラシの方が効率が良かったということ自体は、事実でしょう。音波ブラシのソニケアーなどは歯垢に直接触れていなくても遜色なく除去できるという報告があります。しかし、これらはモデル実験での結果に過ぎない場合も多いです。
いわば試験管の中での結果であって、実際の口腔内の条件は加味されていないのです。
例えば、歯と頬の空間の狭い人とか舌の大きな人などは特にそうですが、ブラシのヘッドが小さくないと確実なブラッシングは困難です。しかし、ヘッドの小ささに関して言えば電動ブラシのそれは手用ブラシには及びません。
もちろん、口腔内で電動と手用を比較して、電動ブラシの効率の良さを報告しているものもあります。ただし僕個人の考えではありますが、手用ブラシが劣るのはあくまで「効率」であって、歯垢の除去そのものではないと思うのです。そして歯間ブラシの守備範囲である、歯と歯の間(隣接面)に関しては、電動ブラシは確実に劣るであろうということ。
さらに、手用に比べてヘッドを小さくできないということは、電動ブラシにとって決定的な不利な条件だと思われます。
しかし、僕が電動歯ブラシを積極的には推奨しない理由の主たるものは、データ云々よりも、もっと別のところにあります。
電動と手用、どちらも一定の期間が経つと毛先が開いてきて、交換が必要になります。ところが今のところ、スペアをいつでもどこでも必ず購入できるという体制にはなっていません。もちろんメーカー間に互換性があるわけでもなく、能書き通りの性能を発揮するためには、家庭にストックを常備しておく必要があります。
また電動歯ブラシはその名の通り電気で動くので、多くの機種で充電が必要になっています。食後のブラッシングをすべて家庭で行うのであれば、問題ありませんが、実際に使いこなすとなると、それは主婦以外には難しいことになります。長期の出張や旅行の時は充電器も持っていかなくてはいけなくなるのです。
「家庭では電動歯ブラシを使い、外出先では手用歯ブラシにすれば良いではないか。」という声が聞こえてきそうですが、両方とも上手くなるというのは現実的には難しく、事実、そのような患者さんを僕は1人しか知りません。「二兎を追うもの一兎も獲ず」とは良く言ったものです。
そして、電動歯ブラシを購入した人の購入理由は、「歯垢除去の効率が良いから」なのでしょうか。いいえ、多くの場合「普段のブラッシングが面倒臭いから」少しでも楽をしようとして購入しているのです。
もちろん最近は、前者の割り合いが少しづつ増加しているでしょうが。
電動歯ブラシユーザーの多くを占める「面倒臭がり屋さん」が、前述の毛先が開いてきた時のためのスペアを常備したり、出張先へ充電器までわざわざ持っていくでしょうか。それに、電動歯ブラシの使い方と手用歯ブラシの使い方の両方とも上手くならなくてはいけないなら、これほど面倒臭いことはないではありませんか。
少なくとも、僕が歯科医師になってからの12年間、ブラッシング指導をした患者さんで、電動歯ブラシのユーザーの人が長期にわたって良好なプラークコントロールの状態を維持できたという例は、実は1人しかおりません。
この人は電動も手用も異常なまでに上手で、まさに稀有な例と言えるでしょう。
僕は電動歯ブラシを積極的に推奨することはしませんが、決して否定しているわけではありません。手が不自由な方などには極めて有効な手段です。また、前述のソニケアーなどは、ブラケット(歯列矯正の装置)を装着している歯には、手用よりも効果が高いと思われます。
結論は、確実に歯垢が除去できれば道具は何でも良いわけですが、一般の人ならば手用の歯ブラシ類で充分です。どうしても電動歯ブラシを購入したいと言う方は、楽をしようと思って購入するのではなく、気合いをいれて、万全の体制をしいて、「電動」を使いこなして頂きたいと思います。
上記の文章は2001年の時点での学術的根拠に基づいて書かれております。
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