「抗カビ剤と歯周病1」


2012年1月追記:
この文章は2001年12月に書かれたもので、現在の見解とは一部異なっています。


2001年11月20日の朝日新聞の夕刊の1面トップに、ある一つの記事が掲載されました。全国の歯周病専門医を自認する歯科医師達が驚愕したであろう、例の記事です。
それまでも「こんな歯周治療をしている先生がいるのか」といった認識はありましたが、夕刊とはいえ、全国紙の1面トップに、かなりセンセーショナルな論調で件の治療法が紹介されたという事実に、正直、驚きを隠せませんでした。以来、多くの患者さんや歯科医師からの御質問をうけることとなりました。2002年1月7日の東京新聞朝刊にも同じ内容の記事が掲載されましたが、こちらは新聞記事らしく、冷静かつ客観的視点を持った論調だったので、当ホームページではこちらを御紹介致します。


●歯周病に独自の治療 「副作用ある」学会は非難
1月7日 東京新聞朝刊より

 「東京の有名歯科大に歯周病の治療に訪れた女性が、診療台に座ってすぐ『全部抜歯する』と言われて慌てて、私のところに飛んできた。治療で使っているシロップを投与したら、一週間後にはすべての歯が正常になった」

 日本国民の8割が、かかっているといわれる歯周病。「その原因は、かびだ」と主張して、独自の治療方法を続ける歯科医がいる。
 神奈川県内の公団団地の中で小さな医院を開いている河北正医師。その1人の開業医が、全国の歯科医たちの世界に波紋を広げている。

 歯周病は、「雑多な最近の集合体である歯垢に起因する感染症」というのが、歯学の世界の定説だ。歯科医は、治療や予防のために「プラークコントロール」つまり歯磨きの励行を勧める。実際の治療でも、歯石・歯垢を取り除いたり、歯の表面を薄く削り取るなどして、感染源を除去する。

 「今の歯科は治すのではなく、破壊だ。例えば、口内細菌を殺すためのレーザー治療は、歯茎も、ぐちゃぐちゃにしてしまう」。河北医師は、現在の治療法を真っ向から否定する。原因から見方が違うからだ。
 歯周病の原因は、細菌ではなく「カンジダ」というかびだと力説する。「細菌が歯茎の中に感染しているという病理組織標本は1枚もない。一方のカンジダは、一目瞭然でわかる。歯石の中は、カンジダの巣なんですよ」と自分が採取した標本を見せながら話す。

 河北流の治療法は、簡単だ。シロップ(抗かび剤)を1cc口に垂らし、舌と歯ブラシを使って口中に行き渡らせる。
 「カンジダは、糖尿病やアトピー、リウマチなど、あらゆる病気に起因する」として、うがいしたシロップは「飲み込んでください」という。
 「シロップでカンジダを殺せば、歯石は空間だらけの軽石みたいになる。歯の自浄作用で、付着している歯石は自然とはがれ落ちる」

 河北医師は、1964年に開発された神奈川県茅ヶ崎市の団地で、歯科医院を開業した。医院は今も当時のまま。待合室は、当時の面影を残す。
 開業当初は、周辺に歯科医院がなく、1日250人もの患者が殺到して「休む間もなかった」と振り返る。
 今は全国から「河北療法」を求めて患者がやってくる。2泊3日で来ましたという患者もいるほどだ。

 「当時、開業してみたら、義歯を作る患者がほとんどだった。優れたものを作りたいと懸命に取り組んだ」。この義歯作りが、カンジダ説を確信するきっかけになった。
 「会心の作(義歯)ができたと患者に渡しても、しばらくすると動いてしまう。こちらの設計が悪くて歯に負担がかかるのでは」と試行錯誤した。

 そのうちに、「歯茎がはれて赤くなるのは、義歯性口内炎が原因ではないか」と考え、シロップを与えてみた。そのシロップが、抗かび剤だった。
 「歯科医だったら義歯性口内炎の原因がカンジダであるということは、誰でも知っている。しかし、歯周病の原因は細菌だと信じ込まされていた。ところが、たくさんの義歯性口内炎の患者に抗かび剤を与えると、なぜか歯周病もよくなった。そこで抗かび剤治療をおっかなびっくり始めた。そうするとほぼ100%治った」と声を張り上げた。

 歯周病の原因はカンジダ菌だとの確信を持った河北医師は98年、歯学専門雑誌に「カンジダ原因説」の論文を投稿した。これをきっかけに「河北療法」はほかの歯科医などにも指示され、治療法も広がりをみせる。

 これに対し、歯周病の病理と治療法を研究する研究者や臨床医からなる「歯周病学会」は反発。同学会のホームページで「抗真菌(かび)剤の利用を批判する」を掲載するなど、シロップを使った「河北療法」を真っ向から批判した。

 同学会理事の石川烈・東京医科歯科大大学院教授は「歯周ポケット内には、カンジダ菌はほとんど見られない」ことを指摘し、「カンジダ菌は歯周病の原因ではない」と頭から否定する。
 さらに、シロップによる治療についても「著しく毒性のつよい抗菌薬で、副作用として腎障害を招くことが報告されている。長期使用による耐性菌の問題も明らかになっていない」と危険性を訴える。
 さらに、「重大な後遺症など取り返しのつかない事態が発生した場合、責任をどのように考えているのか問いたい」と非難する。

 シロップを製造している製薬メーカーも「歯周病治療に効果があるという臨床的、学術的裏付けはない。一部の歯科医が、ご自身の判断で自由診療としてお使いになっていることなので、コメントのしようがない」と当惑する。

 批判を受けることについて河北医師は「学会は権威を保とうとする。結局、メンツなんですよ。(カンジダが原因と)分かり切っているのに、認めてしまっては、今までのすべてが否定される」と一歩も引かない。
 「カンジダに行き着くまでは、私もごく平凡な歯科医だった。それが、今は『あいつがいるから歯学界は平和でない』と言われてますよ。歯科医の中で、異端も異端。最異端」と自らも認める。

 「あまりにも今までの常識とかけ離れているから、受け入れられない。それはわかっている。もどかしさはあるが、つらい治療に苦しむ患者が治ればいい。ただそれだけ」と、河北療法を続ける決意をみなぎらせた。


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