2012年1月追記:
この文章は2002年1月に書かれたもので、現在の見解とは一部異なっています。
2001年11月20日の朝日新聞の記事掲載以来、多くの質問が寄せられました。
直後に大分県の歯科医師、陶山直昭氏から当ホームページの掲示板に、同記事に関する質問が投稿されました。以下はその時点での僕個人の見解です。現時点でも基本的に変わりはありません。
夕刊とはいえ、天下の朝日新聞の1面トップの記事ですから、あれ以来、多くの患者さんからその記事に関する御質問をいただいています。
結論から言うと、もし本当に「歯周病の原因がカビ」であるならば、今までの何十年にもわたる歯周病に関する研究が根底から覆されるといっても過言ではないということです。また、歯周病に関する研究をした人であればあるほど、この説を信じられなくなると言っても良いかもしれません。
件の治療法は一見、バイアグラという薬が「本来は心血管系の薬であるが、患者に使用しているうちにインポテンツの改善に効果があることがわかった、、、。」ということと、同じように映るかもしれません。しかし、これは全く似て非なるもので、バイアグラがインポテンツを改善するメカニズムは科学的に証明されているのに対して、アムホテリシンB(件の抗カビ剤)が歯周病を改善するメカニズムは全くわかっていません。
東洋医学(漢方)は西洋医学では説明できない部分を持っていますが、いかなる治療も東洋医学の理論的体系の中で理にかなっていなければなりません。もちろん件の治療法は東洋医学(漢方)とは異なるものです。
仮にアムホテリシンBが歯周病を改善する効果があるとしましょう。では改善された歯周病をどのように維持していくのでしょう?アムホテリシンBを未来永劫使い続けるのでしょうか?その際に耐性菌の出現や菌交代現象は??副作用は???要するに「やってみたらよかった」という以外、わからないことだらけなのです。
もちろん、端からばかにしてはいけないとも思います。科学における「世紀の大発見」の多くは、最初に発表された時は疎んじられたものです。
たしかに現在の歯周治療は患者さん自身のブラッシングに拠るところが大きいのは事実です。このことは患者さん、歯科医師双方にとって面倒臭いものであり、加えて歯科医師にとっては経済的見返りも少ないため、うがいだけで治ってくれるなら、それにこしたことはないのかもしれません。
しかしながら、、、
僕は現時点では件の治療法を日常の診療に取り入れるつもりはありません。
(歯科)医師として科学的根拠がなく、安全性の確立されていない治療法を、患者さんに適応することはあってはならないと思っているからです。
そして、もちろん他に治療法がないというのではなく(この辺が丸山ワクチンとも異なるところです)、従来からの改良に改良を重ねた現行の治療法で、歯周病が改善することは、世界中の研究者によって証明され、世界中の歯科医師による実績となっているのです。
現時点においては、アムホテリシンBを歯周病の治療のために実際の患者さんに適応することは時期尚早である、と言える段階にもなっていない、というのが僕の見解です。
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