「あそこの歯医者いつも混んでいるからいいわよ。それに急に行ってもすぐ診てくれるし。」
僕も自分が歯医者になるまでは、待合室が混んでいる方が良い歯医者だと思っていました。それだけ人気があるってことでしょ、、、って感じで。そして急に行ってもすぐ診てくれる、、、とても良い歯医者さんのイメージですよね、、、。
結論:
こんな歯医者はあり得ません。なぜなら上記の両者は基本的に矛盾するからです。
「でも私の知っている歯医者はそうだけど、、、」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、よく考えてみてください。待合室が混んでいる:要するに順番待ちの行列ができているのと同じなわけです。そこに急に行ってもすぐ診てくれるということは、行列に並んでいる人達を差し置いて、、、ということになりませんか?。
もちろん医療においては緊急の処置が必要なこともありますから、例外的にこのような対応も必要です。しかしこれはあくまでも緊急時の例外であって、通常は順番を守るべきであるはずです。
急に行ってもすぐ診てくれる歯医者:要するに急に来院したAという患者さんを、他の患者さんよりも優先して診療してくれる歯医者があったとしましょう。ではAさんは初回はすぐ診てもらえましたが、2回目以降はどうなるのでしょう?。約束の日時に来たAさんよりも急に来院した他の患者さんが優先されます。それでも良いとAさんが納得できれば問題はないのですが、、、。
歯医者の都合だけで考えれば、急に来院した患者さんはすぐ診てあげないと、他所の歯医者に逃げられてしまうのでその場はすぐ診療する。一度診てあげれば余程のことがないかぎり次回以降も来院してくれますから、このほうが経営的には良いのかもしれません。
ところで、歯科における「予約制」の意義について確認をしておきましょう。
歯科治療は一部の例外を除いて、予約診療でなければ質の高い治療は出来ません。しっかりとした検査の結果に基づいて患者さん1人1人に適した治療の計画を立て、適切に治療をしようとするのであれば、予約診療は必要不可欠なのです。なぜ予約が必要かと申しますと、立案された治療計画の中には短時間で済む治療もあれば、時間のかかる治療もあるからです。長い時間のかかる治療が予定されているのならば、同じ時間帯には他の患者さんの数を抑える必要があるのです。要するに「今日は混んできたから予定していた治療を端折る」などということは、本来あってはならないのです。当の患者さん自身には何の責任もないのに、たまたま混んでいるというだけの理由で不利益を得るのですから。このような理由から「予約診療を確立することは良質な歯科治療を行う上での大前提である」と言って良いでしょう。
予約診療の意義を確認していただいたところで、「混んでいる」歯医者、「すぐ診てくれる」歯医者、それぞれについて考えてみましょう。
まず、「混んでいる」というより、常に待合室が患者さんで溢れている歯医者について。
実のところ、このような歯医者は予約診療が確立されていない可能性が高いです。単純に考えれば予約制である以上は待ち時間というものがないはずだからです。だってそのための予約ですから。
予約制であるにもかかわらず、待合室が常に患者さんで溢れているということは、恒常的に診療が予定通りに行えていないか、もしくは予定されている診療内容を考えずに無計画に予約をとっているかのどちらかということです。ありていに言うと、予定通りにいっていないか予定自体がないかのどちらかというわけです。
「だって急患が多いんだから仕方がないでしょ」という意見も聞こえて来そうです。確かに急患をゼロにすることは不可能ですが、日常の診療の取り組み方ひとつでその数は確実に減らすことができます。
理屈だけで言えば、理想的な待合室とは「患者さんが予約した時間までに来院すれば、予約した時間きっかりに診療室に通してもらえて、その後の待合室には誰も残っていない」というものです。
もちろん現実はここまで理想的には行きませんが、、、。
常識的にに考えれば、待合室で待っている患者さんの数は、その医院に在籍しているドクターの数と同人数以内であるべきだと言えるでしょう。「でもそれは理想であって現実的には難しい」というのであれば、その医院のユニット(診療台)の数と同人数以内(もちろん急患や付き添いの方の人数は除きます)ということになるでしょうか、、、。
次に「すぐ診てくれる」歯医者について。
予約診療が確立されているのならば、そこに急な予定が入り込んだ時、即座に対応するためには確立された本来の予定を変更しなくてはなりません。要するに「すぐ診る」ことと「本来の予定通りに実行する」ことの両立は不可能なのです。「すぐ」を可能にする為にはその時間に予約していた患者さんの診療内容を変更(削減)しなくてはならないはずなのです。
ただでさえ予定通りに事が進行していない:待合室が患者さんで溢れているのなら、「すぐ診る」ことはさらに困難を極めます。本当に緊急な処置を必要とする患者さんが来院された時は、予約通りにいらしている患者さんの診療内容を変更することになりますが、その緊急度によっては急患優先を了承していただくということもあり得る訳です。逆に緊急度が低い場合は予約通りにいらしている方が優先であるのは当然で、予約外でいらしている以上、お待ちいただくのが筋であると思われます。
しかしながら、予約患者さんの診療予定を変更することなく、急に来院された患者さんの対応をも可能にする方法があります。
それには急に来院した方のために常にユニット(診療台)を空けておき、専任の歯科医師およびスタッフも待機させておくのです。もしくは予約時間に大幅な余裕を持たせておきます。これで「すぐ」診ることが可能になります。
ただし、このような受け入れ体制を敷くということは、患者さんの急な来院がなければ経営的には無駄ということになりますので、経営的に相当の余裕がないと普通の歯科医院では難しいと思われます。ところで、このような体制を実現できる「余裕のある」歯科医院であれば、「待合室に患者さんが溢れることはありえない」ということも賢明な読者の方なら既にお気付きですね?。
当たり前のことを普通に考えれば、
「予約診療が確立している歯科医院で、常に患者さんで待合室が溢れていて、急に行ってもすぐ診てくれているのに、夜はいつも時間通りに医院が閉まる」などということはあるはずがないのです。どこかで治療内容を端折っているか、もしくは最悪の場合は手抜きをしていなれれば絶対に不可能な芸当です。
最後に誤解のないように、、、
このコラムの言わんとすることは「待合室が混んでいるから」という理由で歯科医院を選んではいけないということです。「待合室が混んでいる歯医者は悪い歯医者」とは言っておりません。
また患者さんの急な来院に対しても、可及的早く診てあげられるに越したことがないことは言うまでもありません。ただし「すぐに診れない歯医者=悪い歯医者」と決めつけてはならないと言っている訳です。
|