悪循環その2


歯科治療の常識として、長い間「ムシ歯は小さいうちに治しておいた方が良い」と言われてきました。いわゆる「早期発見、早期治療」というやつです。

しかし近年では「ごく初期のムシ歯であれば削らない方が良い」と言われるようになってきました。さらに「早期治療をすることにより、かえって歯の寿命を縮めている」とまで言われています。これはある意味、非常に衝撃的だったので多くのマスコミに取り上げられました。今までの定説を真っ向から否定しているのですから、マスコミが飛びつくのも無理はありません。

しかし一般の人達がマスコミが取り上げた「センセーショナルな一文だけ」を鵜呑みにすると「悪循環」の落とし穴にはまります。

「削らない方が良い」のは「ごく初期のムシ歯であれば」という条件がつくのですが、マスコミはこれを省略します。記事をよ〜く読めば書いてあったりもするのですが、少なくとも見出しでは絶対に省略されます。賢明な皆さんは見出しに踊らされてはいけません。本当に注意が必要です。

そもそも、この一連の騒動の元になった学説の要点は、、、
「早期発見」されたムシ歯が「ごく初期」のものであるならば、いたずらに「早期治療」をしてはいけません、これからは「早期発見、経過観察」で行きましょう。
、、、というものなのです。

今や歯科業界は空前のMIブームというやつで「最小限の侵襲で最大限の効果を」、要するに「なるべく削らない」が合い言葉のようになっています。しかし中にはこれを受けて「削るのは悪」と言い切ってしまうような、非常に極端で無責任な歯科関係者がメディアに露出したりもします。必要もないのに削るのはもちろん「悪」ですが、削る必要性を説明した上で削るのであればそれはもちろん「善」であります。患者さんの歓心を買うために「削りません」などと言って、本来なら削って除去すべきはずのムシ歯を取り残したままにするなどは言語道断であります。

ところで、あのキ〜ンという高周波音と共に痛みをも伴う「歯を削る」という行為は、アンケート調査でもしたら不快なものの上位に確実に入ってくるでありましょう。歯医者が嫌われる所以です。

以前であれば、歯を削るという不快な時間を少しでも減らすためには、ムシ歯をなるべく早期に発見して小さいうちに削って治療をするしかなかったのです。もしムシ歯を放っておいて大きくしてしまうと、余計に辛い思いをしなくてはならないので、我慢して早期治療を受けていた人も多かったはずです。それが今度は一転して「削らない方が良い」となったわけですから、歯医者嫌いの人達にとってはまさに衝撃的朗報なわけで、簡単に受け入れられて当然でしょう。

ここで皆さんが間違っていけないことは、確かに「ごく初期のムシ歯であれば削らない方が良い」のは正しいことなのですが、決して「削らずに放置しておいた方が良い」わけではないのです。

「経過観察」と「放置」は違います。

ごく初期とはいえムシ歯はムシ歯です。進行すれば削る必要が出てくるのは言うまでもありません。あるところまで進行すれば、以前と同様に早期治療が必要になります。この「あるところ」というのは痛いとかシミる等の自覚症状が出るよりもずっと前の段階です。自覚症状が出る頃には相当にムシ歯が進行してしまっているのです。削らない方が良いであろう初期ムシ歯に対しても、経過観察、要するに「歯科医師による管理」は必要なわけで、決して歯医者から解放されるわけではない(残念でした、ゴメンナサイ)のです。

その他にも、「ごく初期のムシ歯」ではなくなりつつある歯、要するに「そろそろ削って治療した方が良いかどうか」ギリギリ境界線の歯の診断も、普段から歯ミガキが出来ている人とそうでない人では異なってきますし、他の部位の歯のムシ歯の進行度合いを参考にしたりと、要するに患者さん個人により各々異なった対処が必要です。

「歯を削ることにより歯の寿命が短くなる」などというセンセーショナルなだけの見出しに騙されて、単純に「ムシ歯になっても削らないでそのままにしておく方が良い」などと思い込んでしまうと悪循環に陥ります。

「削らない」のと「歯医者に行かない」のとは違うのです。


上記の文章は2001年の時点での学術的根拠に基づいて書かれております。

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