「もう大丈夫!」とは言えない辛さ
長い期間をかけて治療が一通り終了した後、よくこういうことをお聞きになる患者さんがいらっしゃいます。
「これでもう、あとは毎日歯を磨いていれば大丈夫ですか?」
その答えはこうです。
「ごめんなさい。あいにく大丈夫ではないのです」
そう。大丈夫ではないんです。
それはなぜか?
ムシ歯にしろ歯周病にしろ、その原因がお口の中に常に在り続けるからです。
自分自身で行う歯磨きには限界があります。
そもそも現代人で歯磨きをしない人を探すのは相当に難しいことです。
どんな人でも1日に最低1回は歯を磨いているはずです。
なのに30歳以上では8割を超える人が歯周病なんです。
要するに、プロの歯科スタッフによる適確な清掃を定期的にしないと、やはりダメなんですね。
先ほど8割超の人が歯周病、、、などと書きましたけど、「自分は残りの2割弱なんじゃないか?」、、、などと淡い期待をかけたくなりますが、現実はそんなに甘くはありません。
その2割弱の人というのはもともと歯周病菌に対する感受性が低い人:リスクの低い人です。
歯周病になっている時点で、ご自身が既に2割弱の枠からは漏れていると考えて下さい。
既に歯周病になっている人は一定水準以上のリスクを持っている人ですから、今後、加齢とともにリスクは高まれど低くなることはないのです。
「自分は今、歯周病になっていない」からと、自らをその2割弱の低リスクの人間だって思っている人、そんな人でも今後は加齢とともにリスクは高まりますから、充分な注意が必要です。
そもそも、今まで歯周病の治療をしていて、ようやく改善したというのであれば、そんな人はメインテナンスを受けなければ100%再発します。
残念ですが、これは間違いのないところです。
皆さん、毎年冬になると少なくとも1回くらいは風邪を引きませんか?。
中には1回もひかないという人もいるかもしれませんが、ほとんどの人は1度くらいは風邪を引くものです。
もちろん何回も風邪を引くという人も多いです。
要するに成人の8割超の人は、口の中が常に冬の状態なのだと考えて下さい。
歯さえ磨いてさえいれば、お口に春が来てその次には夏が来る、以後永遠に冬は来ない、、、ということは残念ながらないのです。
歯医者から「もう大丈夫!、あとは毎日歯磨きさえしていれば大丈夫ですよ」と言われたい、、、
「安心したい」「早く通院生活と縁を切りたい」という心情はよく解ります。
しかし、こればかりは無理なのです。これはもう仕方がありません。
新品の家電や自動車などの工業製品だっていつかは壊れる、、、
それがお口の中の細菌に曝された歯肉や歯槽骨ことであれば、なおさら過酷な環境に置かれているわけです。
おまけに毎日の食事や食いしばり(人によっては100キロを超える力です)でも酷使されています。
以上のようなことは、つい最近まで歯医者が口の中に起こる病気をいかに「工業製品のように」扱ってきたかということに対するツケであるのかもしれません。
「今日で治療は終了です。何かあったら来て下さい」
患者さんが心待ちにしていたこの言葉、近い将来には笑い話になるでしょう。
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