歯磨き粉の選び方2
今から10年以上前に当コラムで「歯磨き粉の選び方」について書かせていただきました。その後、歯磨き粉の改善や歯磨きの効果に関する研究の進展もあって、当時とは見解がかなり異なるようになりました。
当時と現在とで見解が異なるのは主に「ムシ歯予防」に関する部分です。歯周病に関する見解については基本的に当時のままです。
当時、私は歯磨き粉の使用を積極的にお薦めしてはいませんでした。
その理由としては、歯磨き粉を使うことによってプラークの除去効率が特に良くなるということがないからですが、これは今でもそうです。そして歯磨き粉特有の使用後のスッキリ感(爽快感)のために「磨けていないのに磨けたような気になってしまう」というのは確かにそうではあるのですが、ムシ歯予防に関して言えば「それでも歯磨き粉を使った方が良い」ということになってきたのです。
しかし、一方で、歯磨き粉の中には研磨剤を含む製品があり、確かに色素沈着(茶渋など)の防止には一定の効果がありますが、この研磨剤、歯肉のためには決して良いとは言えません。ミクロの顆粒などという謳い文句で宣伝されている歯磨き粉の顆粒が、歯周ポケット内に残留してしまい、炎症を引き起こす事例もあるからです。
そしてもうひとつ、当時は発泡剤による泡も問題でした。発泡剤による泡は非常に厄介な存在です。ゴクンと呑み込むのも抵抗があるし、ぺっと吐き出すには洗面所で磨かねばならないので、冬場の寒い時などはどうしても早めに切り上げてしまいがちになり、結果として時間をかけてじっくり磨けなかったのです。しかし、現在は発泡性が抑えられた歯磨き粉が多数存在するようになりました。
そして、歯磨き粉に含まれる薬効成分、特にフッ素については、今やムシ歯予防に関して無視することができなくなりました。現在、市販されている歯磨き粉の9割以上がフッ素配合です。それに対して、キシリトールは歯磨きの成分としてのムシ歯予防効果は高くないことが判ってきました。
現在の私の見解は次の通りです。
歯周病のためには歯磨き粉の使用効果は付加価値の範囲内にとどまりますが、ムシ歯予防に関しては歯磨き粉の積極的な使用をお勧めしています。歯周病の患者さんもムシ歯になりたくないのは当然です。よって、すべての患者さんに、フッ素配合歯磨剤の使用をお勧めします。ただし中等度以上の歯周病の患者さんやインプラントの患者さんはミクロの顆粒には気をつけて。
是非歯磨き粉に含まれるフッ素をムシ歯予防のために有効に「使いこなして」いただきたいと思います。
(この文章は2016年3月に書いたものです)