『レジンは万能の治療法?』




2008年の7月、ある患者さんから質問を受けました。

その患者さんは、読売新聞社から出版されたばかりの「歯科の実力」という本を読んで、その内容についての質問でした。


患者さん曰く「その本には、レジンによる治療は従来の金属による治療と比較して歯を削る量が少なくてすむ、 しかもその後、ムシ歯になりにくいと書いてあったんですが、、、」と。

しかも「それなのにレジンは料金が安く、歯医者さんの儲けにならないと書いてあった」とも。



で、早速その本を買ってみました。

その本は、要するに読売ウィークリー(旧:週刊読売)の編集部が作ったもので、いわゆるMOOKというものでした。



本を開いて内容を見てみると、、、

なるほど。

ああ、いつものパターンです。

この患者さんが誤解をして混乱してしまうのも無理ありません。



2009年3月には同様のことがフジテレビで取り上げられました。



2000年を過ぎた頃から、このレジンを使う接着歯学の権威といわれる人達は、

1)「従来の金属を使う治療は悪い治療で、
    レジンを使う治療は新しい良いことづくめの治療だ」

2)「レジンは料金が安いので、医師の儲けにはならない。
         良心的な歯医者はレジンで治療してくれる」

という言い方をするんです。


↑これって、週刊誌をはじめ、マスコミが嬉々として飛びつく要素満載です。


要するに、「今まで普通に行われていた治療は実はダメだった!」と不安を煽っておいて、、、

「でも大丈夫!。最新の治療はこれだ!」とセンセーショナルにまくしたてる週刊誌をはじめマスコミが得意とする手法にピッタリ合致するんです。

さらに、「こんなに素晴らしい治療なのに、儲けにならないから日本の多くの歯科医師はやりたがらない」 という裏事情を暴露するかのような表現で医療不信を煽る、、、。


いままで散々繰り返されてきた手法です。



たしかに、大きくないムシ歯を治療する時にはレジンは金属に比べて歯の切削料は少なくてすむ、、、これは事実です。

そして、従来は金属を使わないと治療出来なかったケースでも、近年は改善が進んでレジンで治療が出来るようになってきている、、、これも事実。

大きくないムシ歯であれば、金属で治療をするよりもレジンで治療した方が、治療したところがまたムシ歯になる可能性も低いでしょう。

しかし、レジンは万能でもなんでもない、、、いままで金属で治療していたものが全てレジンに取って代われるわけではないのですが、 接着歯学の権威といわれる人達はこの部分を語らないんです。
(それとも語ってはいるがマスコミが敢えて取り上げないのか?)

そして何かと「歯を削る=悪」という方向に持って行きたがりますね。

意味も根拠もなく削るのはもちろん悪いことですが、ちゃんとした理由があってそれを患者さんに説明すれば、 「削ったほうが良いケース」があるのはもちろんです。


「不必要な歯の切削は避けるべき」なのは当然ですが、「必要な時には歯は削らなければならない」わけで、 「本来削らなくてはならない部分なのに削らなければ失敗につながる」のです。
大切なのは「なるべく削る時期を遅らせる」ことであって、要するに「削らなくてはならない状態にしないこと=ムシ歯にしないこと」これが最も大切です。



レジンで治療をするとムシ歯になりにくい?、、、メンテナンスをしなければレジンだろうがムシ歯になります。

レジンで治療すると痛くない?、、、痛い時はどのように治療しようが痛いです。そのための麻酔です。

金属は長持ちしない?、、、僕の口の中にある小学生の時に入れた金属は35年以上経った今でも現役です。



どちらが長期間もつか?、、、これは当たり前ですが、ケースバイケースです。

現実的には、レジンは比較的初期のムシ歯に使用されることが多いので、 比較的進行したムシ歯に使用されることが多い金属よりは、結果的に長期間もつケースが多いと言えます。 ですから単純な比較は出来ないし、するべきではないでしょう。



そして「レジンは料金が安いので、医師の儲けにはならない。良心的な歯医者はレジンで治療してくれる」という点ですが、

たしかにレジンで治療をすると診療報酬は少ないです。

でも、金属で治療する時は技工士さんの人件費がかかります。 加えて今は金属価格の高騰で材料費も半端ではありませんから、利益率となるとまた別の話です。

もっとも、上記のように語る権威の多くは大学教授だったりするので、人件費や材料費に頭を悩ますところからは最も遠い場所にいる人達ではあるのですが。



ちなみに、今回の質問をしてきた患者さん、件の本を読んだのが金属で治療をした直後だったんですね、、、

こんな記事読めば、そりゃあ不安になりますって。



実は、開業時から同様のことがマスコミに取り上げられる度に、当方それなりに悩まされておりまして、今回が初めての事ではないのです。

以前、このお役立ち情報のコラムでも『虫歯治療が入れ歯を招く?』という題名でとりあげておりますので、よろしければお読みになってください。



最後にもう一度言いますが、全てに良いことづくめの夢のような万能の治療法などありません。

どんな治療法にも各々に「適応症」というものがあるのです。






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