『最新の治療は最良の治療か?』
「最新の治療法」という言葉の響きは、非常に良いものがあります。
だから「最新の治療法」という言葉は、非常に良い意味として使われます。
TVや雑誌でもセンセーショナルに取り上げられます。
「最新の治療法」は「万能の治療法」であるかのように取り上げられます。
そして「最新の治療法」を施す医師は、あたかも「名医」として扱われます。
ですから、種々の医療機関のホームページや広告では最新の治療法を採用していることを大いにアピールします。
では「最新の治療法」は「最良の治療法」なのでしょうか?
工業製品においては「最新」は「最良」である場合が多いです。
旧モデルの悪い部分を改良して最新モデルが作り出されるからです。
しかし、メーカー間の「力の差」というものがあるので、「A社の最新モデルよりもB社の旧モデルの方が性能が良い」ということが多々あります。
そして使用する側の能力が大きく関与します。
最新のシステムを使用していたとしても、それを運用する人間の質が低ければ、旧いシステムでも使う人間の質が高い方が良い結果を出し続ける、、、これは論を待ちません。
また、最新モデルは「デザイン」を良くするために「機能性」を犠牲にする場合もあります。
要するに、「見た目は良いが使い勝手は悪い」というケースです。
「失敗作」というものもあります。
供給側が「自信満々」で送り出したはずの「最新作」が、時が経つに従って「駄作」であることが露呈したケースは枚挙に暇がありません。
そして「最新=最良」とならないものに、芸術性が重視される分野があります。
自動車などは代表的な工業製品ですが、車体のデザインは芸術的な要素が強く、それ故に最新の車はあくまでも「現行モデル」に過ぎず、「名車」になり得るかどうかはまた別の話です。
もうひとつ、「最新=最良」とならないものにホスピタリティの分野があります。
例えば旅館やホテル、、、最新のものが最良であるとは限らないのは周知の通りです。
これは前述の「運用する人間の質」という話に通じるものがありますね。
、、、さて、それでは医療においてはどうでしょうか。
たしかに「最新」の医療が「最良」の医療である場合が相当数存在します。
ただし、それは工業製品のように単純な話ではありません。
生身の人間が相手ですから、それも当然と言えば当然です。
全ての人間に対して、最新の治療が最良の選択となるとは限らないのです。
例えば悪路が多い地域では、最新のスポーツカーよりも年式の古いオフロード車の方が良い選択となります。
以前、このコラムで「電動歯ブラシ亡国論」なるものを書きましたが、たしかに電動歯ブラシは最新モデルになるにつれ改良を重ねているのですが、メーカー間の性能差は当然ありますし、いまだに旧来の方法:手用の歯ブラシの方が優れている点が数多くあるのもまた事実です。(もちろん矯正治療中のように電動歯ブラシが最良というケースもあるのです。要は適材適所ということです。)
そして、その治療法を取り扱う人間の能力の差もあります。
最新で最良の治療法でもそれを扱う人間の能力が低ければ意味がありません。
さらには、最新の治療法には「テクニックセンシティブな治療法」というものが少なくありません。
高度なテクニックを持つ者が良好な環境(条件)下で上手く行えば極めて効果的ですが、ちょっとでも小さなミスをすると一挙に効果が下がる、、、というものです。
病巣周囲の条件が良好でないならば、最新の治療法よりも旧来の治療法の方を選択した方が結果が良い、ということは実際には非常に多いのです。
デザインと機能性の両立、、、これも医療にはついてまわります。
歯科治療でも、最新の材料で「見た目」を良くするか、それとも「咬むこと」と「長持ち」などの「機能性」を重視するか、、、というジレンマに遭遇することが多々あります。
そして「失敗作」や「駄作」の存在です。
医療に関しても、どう考えてもおかしな治療法が「最新の治療」として紹介されている場合があります。
家庭療法の域を出ないものや、個人的に「やってみたら良かった」という類いのもので科学的な裏付けのないもの等々、、、 しかも、それらをマスコミがこぞって「画期的な治療!」として取り上げてしまうことがあるので注意が必要です。
どうしてもマスコミは「今までの治療だとこんな欠点があった、、、しかし最新の治療は違います!」というスタンスで取り上げるのです。
その方が視聴率や発行部数が上がるので、仕方のないことなのですが、、、。
関連して、ひとつ覚えておいていただきたいことがあります。
以前から存在する薬品には多くの副作用の報告があります。
しかしこれは「それだけ多くの症例に広く使われてきた」ということでもあるのです。
実績のある薬品ほど副作用の報告も多くなります。
最新の薬品の副作用の報告数が少ないのは当たり前です。
副作用の報告数が少ないほど安全性が高い、とは限りません。
そして、芸術性に関して。
医療と芸術は対局と言ってよいくらいに離れた位置にありますので、これは関連しないと言って良いでしょう。
しかし、ホスピタリティは医療に関しても大いに関連する分野です。
これは、最新の医療でも「それを扱う人間によって決まる」というところに通じますね。