医療不信を煽動するマスコミ
それは2009年の9月30日のことでした。
TVをつけながらパソコン作業をしておりました。
流れている番組は、フジテレビの「とくダネ!」でした。
パソコンを操作している手が止まりました。
歯科関連の特集が始まったからです。
テーマは「顕微鏡を使った歯科治療」です。
なんか悪い予感がします。
最初から最後まで視ましたが、悪い予感そのままでした。
番組の構成は、マスコミ得意の相変わらずの手法でした。
「今までの歯科治療ではダメ。」
「顕微鏡を使わない治療はダメ。」
、、、どうしていつもこうなるのでしょうか。
ちなみに、顕微鏡自体は悪いものではありません。
いや、悪くないどころか、使うと良いことがたくさんあります。
顕微鏡を使わないと出来ない治療だってあります。
でも、顕微鏡は万能ではありません。
顕微鏡を使わない方が良い時だってあります。
この顕微鏡、当たり前ですが、高価です。
番組では「最低でも300万円、高価なものでは1千万円を超える」と紹介されていました。
ちなみに当院では導入しておりません、というか、導入する経済的余裕がありません。
そもそも、この特集の冒頭では司会者の小倉氏がいきなり
「皆さんは歯の治療をすると、なぜ治療に何回もかかるのだろう?
と思ったことはありませんか」
と言って始まったのですが、これでは「顕微鏡を使わないから治療が長期間におよぶ、使えば全ての治療がすぐに終わる」かのような誤解を与えます。
もちろん顕微鏡を使えば全ての治療がすぐに終わるなどということはありません。
そして番組は、顕微鏡を使わないで従来通りの治療をを受けた症例の「不具合部分を指摘」するという、いわば「お約束」の展開。
番組で紹介された「治療の不具合」というのは、顕微鏡を使わなかったから生じた不具合ではありませんでした。
顕微鏡使わなくたって、ちゃんと普通に治療をすればあのような不具合は起きません。
「肉眼での治療は目隠しして手探りで治療をしているのと同じです!」、と言わんばかりの視聴者の不安を煽る典型的な煽動放送でした。
この番組、
「顕微鏡メーカーが相当にバックアップしたのだろう」という想像に難くありません。
先にも述べましたが、顕微鏡は万能ではありません。
当院では顕微鏡は導入しておりませんが、私は拡大鏡を使っています。
顕微鏡に比べると拡大率は低いですが、それでも、ン十万円の代物です。
拡大鏡を使用することによる治療上の恩恵は少なくありません。
しかし、この拡大鏡が全ての面で肉眼より優れているかというと、そんなことはありません。
視野が圧倒的に狭いのです。
拡大鏡を使うと「いかに今まで自分が広い視野で治療をしていたのか」ということが判って愕然とするほどです。削っている歯1本だけを見ているわけではないのですね。
無意識のうちに、周囲の他の歯とのバランスをはじめ、口腔内全体を見渡しながら治療をしていたのです。
当たり前ですが、顕微鏡はさらに視野が狭くなります。
繰り返しますが顕微鏡は万能ではありません。必要に応じて有効に使うことが大切です。
番組の後半で、根管治療に顕微鏡を用いているケースの紹介をしていましたが、それはたしかに「顕微鏡を使わなければダメ」で「肉眼では無理」なケースでした。もちろん、そういうケースはあるのです。
歯科医院に顕微鏡が設置されているに越したことはないし、
顕微鏡がなければ出来ない治療もあります。
しかし、「顕微鏡のない歯科医院ではマトモな治療を受けられない」という展開の番組構成には毎度毎度のことですが怒りを感じます。
さらに番組終盤、この番組のレギュラー医療ジャーナリストの伊藤隼也氏が、
「顕微鏡治療は海外では常識です。日本はその点で遅れています」
と言ってました。
以下は私の率直な感想です。
「、、、バカ言っちゃいけねぇよ」
「海外で常識、って、一体どこの海外だよ?」
この伊藤というジャーナリストが国民の医療不信を煽り続けた罪は
本当に大きいものがあります。
たしかに、アメリカの歯科医院で、
ごく一部の富裕層だけを対象にしたところでは常識でしょうけどね。
そして、放送終了後にインターネット上を調べてみると、早速色々なところで反応が、、、。
以下は、ある主婦のブログからの抜粋です。
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『顕微鏡歯科治療』 と言うのがあるのを、ご存知でしたか?
私は、この番組で初めて知って、ある意味、ちょっと衝撃を受けました。
今までは、歯医者さんを信じて、虫歯治療を続けていたわけですが
それも本当は怖いことだったんだと、思い知らされました。
たかが、歯石をとってもらうことにしても、それは、歯医者さんの
経験と勘を頼りにしているだけなのだと言うことを知れば知るほど
「自分の歯は大丈夫なの?」 と思えてしまい、不安を覚えました。
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完全に誤解されています。
早くも医療不信が拡大しておりました。
マスコミって、報道機関ではなく「煽動機関」だと思います。
番組の最後で小倉氏が
「歯医者にとって300万円の出費なんて何てことないでしょ?」
と言っておりました。
おいおい、、、それは本気で言ってるの?
この人は何も解っちゃいないのです。